autour de 30 ans.

勉強したことを書きます

「演奏会用大独奏曲」について―2

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「演奏会用大独奏曲」について―1 - autour de 30 ans.

に託して、ここでは曲の流れを見ていこうと思います。曲は親しみやすいですが、込み入ったつくりの曲には違いないので、まずは全体の構成を示してから順を追って腑分けしていくことにします。

第1部 Allegro energico - Grandioso
1-29…主題A ホ短調
30-45…主題B ホ短調
46-60…主題C
61-101…主題Aによる推移
102-144…主題B' ト長調

第2部 Andante sostenuto

145-160…主題D 変ニ長調
161-169…主題C' ホ長調変ニ長調
170-188…主題D 変ニ長調
189-199…主題C' ホ長調変ニ長調
200-216…主題D 変ニ長調

第3部 Allegro agitato assai

217-234…主題C
235-251…主題B' ト長調
252-282…主題Aによる推移
282-327…Stretta(主題Aによる)

第4部 Andante, quasi marziale funebre - Allegro con bravura

328-350…主題B ホ短調
351-370…主題D ホ長調
371-387…主題B'・主題C' ホ長調
388-418…主題B' ホ長調

ということで、全体的にはソナタ形式をなぞりながら(第1部がいわゆる提示部、第2・第3部が展開部、第4部が再現部)、テンポ変化が多いのと緩徐部(第2部)を挿入したことで多楽章らしく聴こえる、というところでピアノソナタと非常に似た形式です。ついでに言えば主要部のテンポ表示がAllegro energico、Grandioso、Andante sostenutoというのもソナタと同じで、主題の性格も少し似ているところがあります。ソナタへの重要な足掛かりというのが分かっていただけると思います。

ちなみにここでは第一主題、第二主題という言い方をしていないのですこしわかりにくいですが、長い言い訳をすると……

現在一般に使われている「ソナタ形式」の説明というのは1840年代にアドルフ・ベルンハルト・マルクスが提出したものです。それで、マルクスソナタ形式概念は、それまでの同様の説明で使われていた調の対立でなく、主題の対立を中心に説明したところが特徴であり問題点だと言われているわけです*1

ただリストのソナタ形式の作品について考えるとき、ピアノソナタもそう、特にオーベルマンの谷やダンテソナタ(いずれ記事を書こうと思います)がわかりやすいですが、リストが概念化した「主題変容」の技法は、ロマン派風に各セクションへ強い性格的対立を与えるのを、一つの主題で可能にします。そのとき、第一主題の提示→推移→第二主題の提示→小結尾→展開部→第一主題再現……という図式で考えるのは混乱のもとで、主調確立→副次調確立→転調の連続→主調復帰……という古いモデルが役に立つのではないかと考えるわけです。リストは調性の枠組みの崩壊にかなり寄与した人なのは有名で、実際古典派のソナタが基本にしていた主調/属調の対立という効果は彼の壮年期以降の作品ではほとんど感じられません。ただ、大規模な作品を構成するときにソナタ形式の抽象化された「型」を援用することにかけてはかなり律儀なのがリストで、であれば、第一主題、第二主題という用語は極力使わないほうが自分としてはすっきりします。とりあえず主調主題(群)、副次調主題(群)と言っていきますが、それが分かりやすいかは別の問題として……

言い訳終わり。

 第1部

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(譜例はすべてJosé Vianna da Motta校訂のBreitkopf & Härtel版から) 

作品の冒頭はリストらしくなく、主調のホ短調を隠さない堂々とした主題Aで始まります。これに上行音型の楽想が答え、15小節目からはすぐに冒頭動機の敷衍が始まります。ちなみにこの主題、完全な形で出てくるのはこれが最初で最後ということになって、あとはつねに断片的にしか現れません。主調主題(の原型)を軽視するのは他の作品でも多く見られる手法です。

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続いて、それぞれ主題B、主題Cと名付けたものが出てきます。どちらも主調主題群に含まれますが、この後曲の進行の中心となる主題Bがはっきりとホ短調なのに対して、狂言回し的な役割の主題Cは減七度音程+減七和音の組み合わせで不安定な性格が強調されています。減七度下降はソナタファウスト交響曲にも出てきますね。

その後には主題Aを使った長めの推移がありますが、ここでも減七和音や、冒頭動機に由来する半音階を執拗に使った不安定な響きでフラストレーションをひたすら溜めこみ、そして……

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主調の平行長調ト長調になった主題Bが堂々と登場します。これがソナタ形式の副次調主題となるわけですね。129小節目からは「ハープのような」アルペジオを伴った静かな形でも繰り返されますが、後半はフラット方向に転調して次の部分に続いていきます。

この第1部は、調関係を無視するならこれ自体がソナタ形式を取っていると見ることもできると思います(Aが第一主題、Bが第二主題)。

第2部

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相当な遠隔調の変ニ長調で新たな主題Dが登場。抑制のきいた良い旋律で、後半は旋律が五度下降になるうえに短調へ傾いて泣かせます。ケネス・ハミルトンはショパンの幻想曲の緩徐主題との類似を言っています。

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主題Cは短七度に変わり、単なる七の和音の上で柔らかい表情を見せるようになります(まさにソナタを思い出すところです)。この第2部はD-C-D-C-Dのロンド風の作りですが、DとCの二回目は右手に細かいパッセージ、Dの三回目はバラード第2番の終盤を思わせる堂々たる姿、と装飾を変えて変化を付けていきます。

 

長くなったので後半はまた次の記事で。

「演奏会用大独奏曲」について―3 - autour de 30 ans.