autour de 30 ans.

勉強したことを書きます

「演奏会用大独奏曲」について―3

前回に引き続き曲の流れを追っていきます。はじめに全体の形式を再掲しておきます。

第1部 Allegro energico - Grandioso
1-29…主題A ホ短調
30-45…主題B ホ短調
46-60…主題C
61-101…主題Aによる推移
102-144…主題B' ト長調

第2部 Andante sostenuto

145-160…主題D 変ニ長調
161-169…主題C' ホ長調変ニ長調
170-188…主題D 変ニ長調
189-199…主題C' ホ長調変ニ長調
200-216…主題D 変ニ長調

第3部 Allegro agitato assai

217-234…主題C
235-251…主題B' ト長調
252-282…主題Aによる推移
282-327…Stretta(主題Aによる)

第4部 Andante, quasi marziale funebre - Allegro con bravura

328-350…主題B ホ短調
351-370…主題D ホ長調
371-387…主題B'・主題C' ホ長調
388-418…主題B' ホ長調

 

第3部

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第2部の最後で出てきた半音階のパッセージと減七和音で音楽は暗転し、派手なアルペジオとともに主題Cが出てきます。ただそれは長く続かず、

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主題B'が、これも華やかな装飾とともにト長調で出てきます。左手のリズムは主題Aがもとですね。これがやはりフラット方向に転調してハ短調まで行ったところで(「悲愴協奏曲」版では最後のほうに主題Aが絡んできます)、第1部でも出てきた主題Aがもとの推移部に移行します。

より動機を細切れにして高揚し、282小節からはStrettaと記された対位法的な展開でさらに緊迫感を増していきます。頂点に達したところで主題Cが現れてゲネラルパウゼ。締めくくりの音型、c-disは「オーベルマンの谷」でも同じ使われ方をしていました。

全体の構成を考えるとき厄介なのがこの第3部です。いわゆる「展開部」とみるにはあまりにも第1部と同じすぎる、ただ「再現部」と見るにも第1部と同じすぎるので(すべての楽想は同じ調で出てきます)、どちらの解釈もあるようです。前者だと、図式通りこの後に「再現部」が続いて主調復帰ということになり、後者だと、再現部では調がまったく解決されず、コーダに入ってようやく主調に落ち着くということになります(ベートーヴェンがコーダを第二展開部にして再度主調復帰のドラマを作ったようなものでしょうか)。

個人的には前者の考えに与していて*1、主調復帰を準備する部分(いわゆる展開部にあたる)であると同時に、第1部を変奏しながら繰り返して(「再現」ではない)調的対立を再度強調しながらストレッタになだれこむ部分、だと考えています。

第4部

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四段譜ですが怖れることはありません。ソステヌートペダルを使うといいのでしょうか。主題Bが葬送行進曲の形で現れ(低音は太鼓の模倣)、ここから長大な主調復帰パートが始まります。異名同音を使って変イ長調を通り、351小節でホ長調にたどりついて主題Dが朗々と歌われます。ソナタ形式としてはこれで一応めでたしめでたしなのですが、まだドラマは続きます。

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お待ちかねの主題B'主調復帰。主題Aのリズムと、長六度に丸められた主題Cが絡んでくる豪華版です。この後は主題Cのレチタティーヴォが拡大されてひとしきり動き回りますが、最後には388小節からコン・ブラヴーラで主題B'が高らかに奏されて幕となります。

このラストでは、クライマックスに達するずっと前の351小節以降、多少の波乱はありながらもホ長調が最後まで続くわけで、ケネス・ハミルトンははっきりと否定的な意見を述べていますし、リスト自身も「悲愴協奏曲」への編曲の際には上の譜例の部分を転調させています。個人的にはそこまで言うほどかな、とは思うのですが、改訂を独奏版に取り入れた演奏も一度聴いてみたいとは思います*2

 

*1:多義的に捉えられることはもちろん前提ですが。

*2:ハワードさんあたりどこかで弾いてそうな気はする。