autour de 30 ans.

勉強したことを書きます

ポロネーズ第1番(憂鬱なポロネーズ)について

リストのポロネーズ第1番ハ短調(S.223/1)。「憂鬱な」(mélancolique)という副題はリスト自身が付けたものですが、EMBのリスト全集以前は省かれることが多かったそうです。

ホ長調の第2番とのセットで発表された作品ですが、第2番はSP時代からかなりの録音があるのに対し、こちらはまだまだ知られている存在とは言えません。ただその2番のほうも現在では新しい録音が次々出るという状況ではないようで、そこの隙間に復権してくれると嬉しいのですが。

作曲は超絶技巧練習曲やスケルツォとマーチと同じ1851年、ワイマール時代前半の「傑作の森」のど真ん中に位置する年代です。またリストがソナタ形式を扱った大規模作品の一つでもあり、演奏時間も12、3分と代表作群に迫る長さ。ということは今ではやや辺縁に追いやられているものの、壮年期の大作の一つとして遇されるのがふさわしいと考えています。

バラードと同様に、1849年に亡くなったショパンの影は気になるところです。随所に出てくる装飾音符や、作品を支配する物憂い雰囲気(同じ調性のショパンの4番とはあまり似ていないと思います。独特のヒロイズムは強いて言えば5番に通じるかも)には確かにショパンの雰囲気を感じるところがなくはなく、もしかするとそのために歴代のリスト弾きが取り上げてこなかったのかもしれません。ですがそういった要素は完全に換骨奪胎されていて、「リストの作品」として無視すべからざる輝きを放っていると思います。

演奏はハフ盤(Hyperion)かヨゼフ・モーク盤(Claves。なぜかレーベルがYoutubeにフルアルバムを上げています)をよく聴きます。ほかにもケントナーやマルテンポなどレパートリーに一癖あるピアニストが取り上げていて、評価される地盤は大いにある曲だと分かります。

1-7 導入
8-69 A部分 ハ短調
70-146 B部分 変ホ長調
147-214 A部分 ハ短調
215-230 B部分 ハ長調
230-298 コーダ

全体はソナタ形式として解釈可能(しかも「ソナタ形式」の形にとても忠実な)ですが、スケルツォとマーチと同様に考え、ソナタ形式の調構造を踏襲した三部形式と見てB部分を中間部、再現からが長いコーダと考えてもいいと思います。

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ポロネーズリズムの短い導入*1に続いて、ハ短調でA部分が始まります。柔弱な音使いとリストにしては比較的素直な和声進行が寂寥感を醸し出します。

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ポロネーズリズムによる間奏を挟んで主題が繰り返されるときには、まさにショパン流の装飾音符が追加されます。

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B部分は変ホ長調に転じて雰囲気は和らぎます*2が、シンプルな旋律には影がつきまといます。109小節で繰り返されるときにはポロネーズリズムも加えて「三本の手」技法による装飾が追加。

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B部分が盛り上がったところでA部分が戻ってきます。前半と同じく主題は二回繰り返されますがなかなか凝った変奏が加えられます。力強い一回目は両手のオクターヴの対話。

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二回目では4拍子になって、前半の二回目同様に細かい装飾が加えられます。こちらはリスト本来の書き方に少し近いでしょうか。

装飾音符がカデンツァになってB部分が戻ってきますが、突然のフォルテで暗転しハ短調の大規模なコーダが続きます*3。B部分の動機は暗い響きに変容して*4ポロネーズリズムと組み合わされ、最後には強音ではありますが到底華々しくはない、無骨な印象の締めくくりを迎えます。

*1:晩年に編曲した「エフゲニー・オネーギン」のポロネーズもよく似た始まりです。

*2:旋律が細かく屈折するA部分とおおらかな一つながりに歌うB部分の対比もあります。

*3:主調再現の部分が充実するとコーダが長くなるのはベートーヴェンの作例と共通するところです。

*4:暗→明の順序での変容が多いリスト作品では珍しい。